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「解決」はできない、できるのは「改善」だけ――フランスから学ぶ少子化対策・高崎順子×駒崎弘樹「ここを変えよう! ちょっとズレてる日本の子育て、保育政策」

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日本同様に少子化に悩む先進国でありながら、見事子育て大国への大転換を果たしたフランス。成功の理由は、子育て政策を貫く新発想にありました。現地の実情と本音を、パリ在住のライター・高崎順子さん(2児の子育て中)がまとめたのが、『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)。

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この本の刊行を記念して、認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さんを迎えたトークイベント「ここを変えよう! ちょっとズレてる日本の子育て、保育政策」が開催されました。

駒崎さんは、育児・保育の現場から制度までをよく知る第一人者。日本初の「共済型・訪問型」病児保育、障害児保育サービスなどを次々に立ち上げ、いま困っている子育て世代を救う一方で、まさに「待機児童問題解決」のために小規模認可保育所を制度化して全国にモデルを広げた人物でもあります。認定NPO法人フローレンス自身も都内に15園の小規模認可保育所「おうち保育園」を運営するほか、全国小規模保育協議会の理事を務めるなど国家政策を改善するために日々意見発信をしています。 フランスの実情から、私たち日本人が学べることとは?

フランスの保育園は日本とどう違うの? ストレスの溜まりがちな子育て世代がすぐ実行できる方策は? 日本の子育て・保育政策について交わされる徹底討論の模様を、ママスタ読者のみなさまにお伝えいたします。

日本とフランスの保育、どう違う?

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高崎さん「日本だと、集団保育型の保育園にお子さんを預けられる方が多いと思います。でもフランスでは、保育園というのはメインではない。実はフランスの保育園の枠って、0-2歳児の全人口の16%しかないんです。46%は、「母親アシスタント」というものを利用しています。政府の認可を受けて自宅で開業して、1件につき4人まで子どもを預かれる。集団行動が不安だということで、家庭的な保育を求める人も多いんですね」

駒崎さん「日本だと、選択肢が認可保育園の一本に絞られて、保育園も公立の保育園でなければならない、私立は教育法人だったらいいけれども株式会社だったらダメ、というような神話がある。フランスのように多様な保育が受け入れられにくい雰囲気があるんです」

高崎さん「多様な保育のインフラを作るにあたり、フランスは保育園も母親アシスタントも、それぞれ全国統一の基準で認可制にしているんです。だから日本の『無認可保育園』を見ると、『認可もされていないところに子どもを預けていいの?』と思ってしまう」

駒崎さん「日本もフランス同様に、保育所を国が認可するという仕組みになっているんですけど、園の面積や耐震基準など、非常に高いハードルがあって、数を増やすことが難しいんですね。だからそことは別として作られるのが、無認可の保育園。それも二種類ありまして、『完全なる無認可』のものと、『国の認可はないものの、地方自治体の認可は受けている』というもの。『完全なる無認可』というのは、保育士の給料がすごく安かったり、建築の基準がゆるかったりといった、いろいろな問題を抱えている場合もあるのですが、それでも許されているのは、ないと困る人たちがたくさんいるから。なので、本当はすべての園が認可保育園になれば一番いいのです。
では、なぜならないのかというと、日本とフランスでは、国が保育に投下している予算が違うんですよね。手厚い制度を整えるには、予算が要る。フランスは対GDPで、だいたい家族関係予算が2.8パーセント、なのに、日本は1.3パーセント。投入している資源は半分以下なのに、日本政府は出生率は1.8まで回復しまししょう、フランスと同じくらいにしましょうと言っている。国の予算の違いというのが、本質的に変えていかなければならないところなんです」

『使用済みオムツ問題』も予算の問題だった?

高崎さん「日本の保育園では、『使用済みオムツ問題』というのがありますよね。園で交換した使用済みのオムツを、保護者が持って帰らないといけないという」

駒崎さん「一応、『親御さんが便の様子を確認して、お子さんの体調を把握できるように』ということらしいですが、胃腸炎などの病気に感染するリスクがありますよね。もちろんビニールに入っているけど、医療関係者の話では、できればやらないほうがいいと。この問題についても、予算の話になってしまう。使用済みオムツって事業者の廃棄物になるので、お金がかかるんですよね。園の中ではそういうコストを払うのは大変だというところもあるでしょう」

高崎さん「そうなんです。厚生労働省の方に、その問題についてお話をしてみたんですけど、やはり『それをやるにはお金がかかるんですよね』と言われました。でも、その政策を国がやることのメッセージ性って、すごく強いはずですよね。『子育てしている人たちの辛さを国がすくい上げてくれた、お金をかけてくれた』というだけで、とりあえず現状を変えようとしてくれているんだというメッセージになると思うんです」

駒崎さん日本の子育て政策って、とにかくお金が足りないんですよね。『オムツすら満足に捨てられないくらい、子育てにお金をかけていない国』というのが、今の日本なんですよ」

「子どもが健康に楽しく過ごせるなら、どこにいたっていい」

高崎さん「フランスと日本では、保護者の意識も違いますね。フランスでは、『集団保育の保育園じゃなきゃいけない』という意識はないんです。『日中子どもが健康に楽しく過ごせるなら、保育園だって母親アシスタントのところだって、どこにいたっていいじゃないか』という考え方をしている。日本の保護者の、意識のハードルの高さっていうのも、ちょっと問わなきゃいけないと思うんですよ。『手厚い保育を受けられるのが当たり前で、そうでなければ保育園をやることはできない』と思っているところはないかなと。

駒崎さん「『手厚さ』って言うのを何で評価するかも気になりますよね。保育の質の高い低いが問題になるけど、じゃあ『保育の質』って?となると、それは人によって違いますよね。そこは園に対して『質』を問う前に、『質とはなにか』という問題をはっきりさせておくべきところだと思います」

日本の保育士の「仕事」とは? フランスの保育園は「親のサポート」の場

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駒崎さん「現在、日本の保育士の有効求人倍率は6倍。保育士が足りていないのだと思われるかもしれませんが、実は保育士資格を持っている人はたくさんいます。その全員が保育園で働いてくれれば、日本の保育士不足は解消されるんですね。資格を持っている70万人中、35万人しか保育士として働いていない。なぜかというと、保育士の重労働・長時間労働に対して、社会的地位がとても低いから。賃金が安すぎるからなんです」

高崎さん「フランスでは、給料が日本とそれほど変わらないかわりに、福利厚生がとてもしっかりしているんです。そして最大の違いが、保育士という仕事の軸は『子どもの世話』であって、そのほかの業務は極力やらせないということ。だから食事を作ったり季節行事を計画したりすることは、業務に含まれないんです。 それに、フランスの保育園っていうのは親の代わりになっちゃいけない。保育園というのは、あくまで子どもたちが親とはなれて集団生活をする場なので、保育士さんは、親と混同させるような関わり方をしてはいけないんです。たとえば抱っこするときには“正面から”抱きしめてはいけない。横抱きしかしちゃいけないんです。それも子ども側から求めてきたときだけで、自分から抱っこをしにいくのはNG。抱きたいときに子どもを抱けるのは、親の特権という考え方です。
フランスでは、保育園は親の勤労支援・サポートをする場。園に愛着困難な子どもがいた場合も、園でその子のケアをするのではなく、親のほうをケアするんです。親が愛情を持って、自分の子を抱きしめてあげられるように。だから子どもの受け渡しのとき、保育士は必ず、親と顔を合わせて話をしなきゃいけないようになっています。そこで親の様子がいつもと違ったりしたら、『今日は疲れていませんか?』というふうに話をする。だから、連絡帳は必要ないんです」

駒崎さん「日本の保育園だと、受け渡しは一瞬というところが多いですよね。本当はそこで親のケアをしなきゃいけないのに。日本だと、『連絡帳があるんだから話す必要はない』というふうになってしまいがちだし、今の保育士不足の状態だと、ひとりひとりの保護者の方と話をするというのは困難ですよね」

日本の小規模保育は「ちゃんとした園ではない」?

高崎さん「日本の保育園は、ひとつの園が抱える人数も多いですよね。フランスでは、ひとつの保育園で預かれる子どもの数は最大で60人と決まっているんです」

駒崎さん「日本ではだいたい100人程度、300人を超える園もあって、それに比べると小規模ですよね。僕らのやっている小規模保育は6人から19人。小規模保育は、2015年から認可されたものです。それまでは『最低』の人数が60人だったんですよね。そこに働きかけた結果、小規模認可保育所というものが認められて、2010年の4月当初には1園だったのが、2015年に1600園、2016年には2400園に広まっています。しかし実は今、小規模保育については批判をされていて、それも『規模が小さすぎる』『ちゃんとした園ではない』『子どもは集団の中で育てなきゃいけない。少人数で子どもを育てたら、コミュニケーション能力が育たなくなる』といった批判なんです」

高崎さん「論理的に考えたら、人数が多くなればなるほどコミュニケーションって取れなくなりますよね。その批判、エビデンスとかはあるんですか?」

駒崎さん「エビデンスはないんです。子どもに対する『想い』がそうさせてしまう。僕は『想い』も尊重しながらも、きちんとエビデンスのある保育をしたいと思っていますけど。フランスでは小規模の保育というのが普通にあるけれど、日本の場合、今が過渡期なんだと思いますし、日本にもっと情報が来たほうがいいですよね。日本の保育業界の人は、日本の保育事情には詳しいけど、諸外国の保育がどのようであるかは知らないことが多いので」

「解決」はできない。できるのは「改善」だけ

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高崎さんフランスでは、なんでもデータとエビデンスに基づいて判断をするんです。日本の子育て政策も、親の子育て方針も、現状をしっかり認識したうえで改善していこうという部分が足りていないですよね。なんでも『解決しなきゃ』『解決できるはずだ』という『想い』で走らせようとしてしまう。フランス人の子育て政策を見ていると、そもそも完全な『解決』はできないものだ、少しずつでも状況をよくすることが重要、としているように見えます。子育てに関しても、親への期待値がすごく低いし、『子育ては完璧にできなくて当たり前』という考えで支援をしているんです」

駒崎さん「それは大事ですよね。日本では、親は『神』であって、なんでもできる存在でなければならないとされがちです。子どもを生んだ瞬間に親は母性の塊になって、子どものためなら何でも投げ出せる人でいなければならない。でも、そんなわけないですよね、親も普通の人なんだから

高崎さん「フランスではそれが認識されているから、できないことを認めて、ひとつひとつ穴を埋めるように、今できることをやろう、少しずつ理想に近づいていこうという姿勢が取れる。『解決』はできない。できるのは『改善』だけなんです。そうした考え方が、日本にも取り入れられるといいですよね」


「日本の制度をもっと変えていこう」「フランスの制度を取り入れていきたい」
と語る高崎さんと駒崎さん。日本の保育問題を解決するのに求められるのは、国でも親でも同じものなのだというのが驚きでした。もちろん、なんでもすぐにフランスのように、というのは難しいかもしれません。ですが、明日からの子育てが少し変わる、そんな気持ちになる対談でした。

文・餅井アンナ