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「子どもが私に似ていない」姑に相談する私とおじいちゃんの思い出

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2年前に亡くなった主人の祖父。主人と私が付き合い始めた14年前には、80代半ばだというのにそれはそれは精力的な方で、老人会の会長をしながら、介護が必要だったおばあちゃんにいつも寄り添いつつ、趣味の詩吟を声高らかに嗜む、好々爺とはこの人の為にあるのではないかと思うほどの方でした。

若い頃は俳優の北村一輝さんに似たキリっとした男前で、花街で料理屋を営んでいたおじいちゃん。妻であるおばあちゃんが傍らにいるにもかかわらず、百戦錬磨の芸舞妓さんたちがおじいちゃんにアプローチしてくることも度々で、おばあちゃんはいつも気が気ではなかったそうです。

それでも、
「おじいちゃんと結婚できて、ホンマに幸せやったわぁ」
いつもそう私に聞かせてくれたおばあちゃんが亡くなったのが、8年前。主人と私が結婚した数日後でした。私たちが結婚するのを見届けた後の、静かな最期でした。

いつでも一緒にいた愛する妻を失ったおじいちゃんは、おばあちゃんの死後魂が抜けたかのように活力を失ってしまいました。3年前に主人と私の間に娘が生まれたときにはすっかり耳も遠くなっていて、音もほとんど聞き取れていないであろうテレビの前の座椅子に日がな一日座って過ごす毎日でした。

娘が伝い歩きを始めたある日、主人の実家へ私と娘だけで遊びに行ったときのことです。

私は姑(おじいちゃんの実の娘)に料理を教えてもらいながら、姑と談笑中。娘はそのわきにある茶の間で、ぼーっとテレビを見ているおじいちゃんの周りを伝い歩きでぐるぐると回っています。
もはや娘が誰の子かは理解していないようですが、呆けていても元々子煩悩だったおじいちゃん。
「あんた(あなた)どこの子や~」
よたよたと歩く赤子が怪我をしないようにと、娘がよろけるたびに手を出して支えてくれていました。

その様子をほほえましそうに見ながら、姑が言いました。
「〇〇ちゃん(娘)、すっかり顔もしっかりしてきて、もう赤ちゃんと違って幼児の顔になってきたなぁ。この子はべっぴんさんになるぇ。誰に似たんやろなぁ」
「そうですねぇ」
私も答えます。

以前ニュースで「鴨川の上流に生息する天然記念物・オオサンショウウオが混血により絶滅の危機」という特集が放送された直後、
「お前、大丈夫か?」
「今テレビ出てたやろ」
と友人からのメールが数件送られてくるほど、両生類や魚類に例えられる私の顔面。それには一ミリも似ずに生まれてきた娘。出産直後「ふげぇ」と妙な産声をあげて出てきた娘の顔は脚の間からしかと見たので、よもや病院内の取り違いなどであろうはずもなく、確実に私の娘なのですが、「お母さんにそっくりね」という定番の褒め言葉を周りから頂いたことは一度としてなく。赤ちゃんの頃の娘はとても綺麗な顔でした(あくまで親の欲目)。

あわよくば、若い頃は女優の天海祐希さんと内田有紀さんを足して2で割ったようなお顔をしていらしたという姑に似てほしいと思っていた私。

「ほんまに、全然私に似ていないんですう。確かに自分で産んだはずなんですけどねぇ」

子が「自分に似ている」のは勲章なのか。

産まれた直後の身内のお見舞いでは
「わしに似とる」
「いえいえ、目元は私ですよ」
「口はうちのじいちゃん似だ」
その後どんな顔になるかなんてさっぱりわからない新生児のくっしゃくしゃの顔を見て、「自分に似ているアピール」をしたがる身内。

娘の幸せを考えたら自分に似ていないほうがいいような気がするけど、あまりにも「ママに似てるね」と言われなさすぎるとそれはそれで不安だったりして……。

それを踏まえてなのか姑は私の「似てない発言」を聞いて慌ててフォローをしてくださいます。

「そ、そんなことあらへんぇ~、ほら、〇〇ちゃん(娘)のお鼻なんて、順子ちゃん(私)にそっくりやないの~。」

とそのとき、娘にその膝を占領され、娘と向かい合って茶の間の座椅子に座っている、お耳が遠いはずのおじいちゃんがひと言。グッドタイミング。

「おー、かわいそうになぁ。あんたは鼻ペチャやなぁ」

ツンドラのような寒い空気と共に一瞬フリーズする姑と私。どこの子かもわからないまま目の前のひ孫をあやすおじいちゃん。そしてわかっているのかいないのか、曾祖父の膝の上でキャッキャ笑って屈伸運動をする娘。

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「だっっ、だいじょうぶぇ~、順子ちゃん(私)かてべっぴんさんやさかい~、子どもの顔は変わる言うし~」
姑の冷や汗がほとばしるかのようです。

姑が必死にフォローしてくださる様子と、おじいちゃんの絶妙すぎるつぶやきに笑いをこらえずに腹を抱える私。お互い分かり合えていなそうで分かり合えていそうな曾祖父とひ孫の笑顔を見ていたら、もう自分に似ているとか似ていないとかどうでも良くて。

ただただ娘がこんな風に周りから愛されて育ってくれたらいいなと思ったのでした。

それから数か月後、おじいちゃんはお空へ旅立ちました。あれから2年が経ちますが、おじいちゃん、娘はまだあなたのことは忘れていません。あなたの溺愛した孫(私の夫)と一緒に、あなたが若かりし頃孫に歌ってあげた手遊び歌で、今日もあなたの孫とひ孫が耳を引っ張り合いながら笑いあっています。
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新しい命が生まれ、一方で消えていく。母親になって以来まざまざと見せつけられる普遍的な命の営みに、ただただ圧倒される日々です。

ちなみに、人とすれ違うたびにカワイイカワイイと声を掛けられていた娘は3歳になった今、「お母さんにそっくりね~」と声をかけられることが増えてきました。「そっくりねぇ」の前後に「カワイイね」が無くなってきてしまい……。娘、ごめん。

そしてその後産まれた第2子はもう……明らかに目と目の間が離れている「両生類顔」。ごめん、かぁちゃんのDNAの強さを、将来恨むかもしれへんなぁ。

文・桃山順子 おぐまみ